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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)10381号 判決 1997年5月29日

甲事件原告・乙事件被告

オリックス株式会社

右代表者代表取締役

宮内義彦

乙事件被告

有限会社ティー・エイチ・シー・マネージメント

右代表者代表取締役

石田克明

右両名訴訟代理人弁護士

林彰久

稲田龍示

甲事件被告・乙事件原告

株式会社友定建機

右代表者代表取締役

友定弘蔵

右訴訟代理人弁護士

山崎晴夫

主文

一  甲事件被告は同事件原告に対し、金三一三七万九二二八円及び内金二九九九万九二六二円に対する平成四年一二月一日から完済まで年14.6パーセントの割合による金員を支払え。

二  乙事件原告の同事件被告らに対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、甲、乙事件とも甲事件被告・乙事件原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  甲事件

主文一項同旨

二  乙事件

乙事件被告らは各自同事件原告に対し、金一〇六八万三八六五円及びこれに対する乙事件被告オリックス株式会社は平成七年一一月二日(訴状送達の日の翌日)から、同有限会社ティー・エイチ・シー・マネージメントは同月一〇日(同)から、いずれも完済まで年五パーセントの割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、甲事件原告・乙事件被告オリックス株式会社(以下「原告オリックス」という。)が開発した米国における不動産投資商品への投資に関連して、原告オリックス及びその関連会社である乙事件被告有限会社ティー・エイチ・シー・マネージメント(以下「被告T社」といい、原告オリックスと被告T社を併せて「原告オリックスら」ということがある。)とその投資者である甲事件被告・乙事件原告株式会社友定建機(以下「被告友定建機」という。)との間に生じた紛争であり、原告オリックスが被告友定建機に右投資資金の一部として融資した融資金の返済を求める(甲事件)に対し、被告友定建機が、右投資は原告オリックスらの不法な勧誘行為によるものであるとして、不法行為に基づく損害賠償を請求する(乙事件)事案である。

一  基本的事実関係(甲第一ないし第八号証、第一六、第一八号証、乙第一ないし第四号証、第七号証、乙第二六号証、証人豊満芳樹の第一、二回、被告友定建機代表者本人、弁論の全趣旨により認める。)

1  原告オリックスは、金銭の貸付などを業とする株式会社であるが、平成二年九月一三日、左官用建設機械器具を製造販売する被告友定建機に対し、金三〇〇〇万円を最終弁済期限平成一七年一一月三〇日、利率年9.2パーセント(但し、弁済日前日までの残元本について月利計算(借入日から第一回弁済日前日までの期間中一ヶ月未満の端数日数に限っては年三六五日の日割計算)で後払いするものとする。)、元利金の返済は別紙明細表のとおりとし、遅延損害金は年14.6パーセント、元利金の返済を一回でも遅滞したときは当然に期限の利益を喪失し、残債務を即時弁済する約定で貸し付けた(以下「本件貸付」又は「本件借入」といい、右による貸付金を「本件貸金」という。)が、被告友定建機は、平成四年一一月三〇日分(別紙明細表第五回分)の支払をせず、同日、残元金二九九九万九二六二円について期限の利益を喪失した。[甲第一号証、弁論の全趣旨]

2  本件貸付は、原告オリックスが開発した節税商品(税の繰り延べ効果の享受)である3項の海外不動産小口化投資商品(以下「本件投資」という。)への投資資金の一部を投資者に融資するものとして当初から本件投資にセットとして組み込まれたもので(以下「本件融資制度」という。)、投資者は原告オリックスから本件融資制度により投資資金の一部の融資を受け、その借入利息を税務上損金として処理するなどして節税を図ることになっているため、本件融資制度による借入を起こさなければ投資者にとっては節税商品としての機能の一部が失われることになる。

3  本件投資の概要は次のとおりである。

(一) 平成二年八月三一日に新たに設立された原告オリックスの一〇〇パーセント孫会社である被告T社を営業者とする匿名組合契約を締結した個人、法人の投資家が組合員となって、一口あたり一〇二〇万円を被告T社に出資し(このうち、二〇万円は参加手数料として被告T社が取得する。)、営業者である同被告がリミティッドパートナーとして右の資金(一口一〇〇〇万円)を米国カリフォルニア州に設立されたリミティッドパートナーシップへ投資して出資持分九九パーセントを取得する(残り一パーセントの出資持分は、原告オリックスの一〇〇パーセント子会社であるOLCカリフォルニアインコーポレーテッドがゼネラルパートナーシップとして取得する。

(なお、右のようなリミティッドパートナーシップ方式は、米国において複数の投資家が共同して不動産投資を行う場合に通常採られる形態で、パートナーシップ自体は課税の対象にならず、構成員である各パートナーが直接の課税対象となることから税務上の二重課税を回避でき、また、匿名組合契約にあっては組合財産が営業者に帰属することから投資物件の所在する外国では営業者のみが税務申告し組合員は税務申告を要しないため国外税務申告の負担がなく、より投資の小口化を展開でき、一方、組合員は、国内税務申告においては匿名組合決算の最終的な配分損益を取り込めば足りる簡易なものになる。)

(二) 投資を受けたリミティッドパートナーシップは、これにより米国カリフォルニア州サンタアナ市所在のテナントビル「3ハットン・センター」(以下「本件物件」という。)を購入して不動産会社に一括賃貸し、その賃料収入から本件物件の維持管理費、テナント関連費用、固定資産税等の諸経費を控除した純賃料を定期的にリミティッドパートナーシップである営業者被告T社に分配し、同被告において、借入元利金の弁済資金、米国での租税公課、営業報酬等を控除した損金を匿名組合員である各投資家の投資口数に応じて分配し、これにより本件物件を共同で所有・運用する(したがって、一括賃借した会社の経営が安定しておれば、空室の有無にかかわらず、一定の賃貸収入が約束され、賃料収益、すなわち、収益価格を基礎として取り引きされる将来の不動産売却益も十分に予測される。)。

(三) 各投資家は、被告T社との匿名組合契約(以下「本件匿名組合契約」という。)における出資一口につき、一〇二〇万円を次の方法により出資する。

(1) 内金七二〇万円は現金により出資するが、そのうち金六〇〇万円は、本件融資制度により原告オリックスからの借入金をもって出資することもできる。

(2) 三〇〇万円は、営業者である被告T社の株式会社オーリス(原告オリックスの関連会社、以下「オーリス」という。)からの借入金につき三〇〇万円を限度に保証する方法により出資する。

(四) 本件投資を運営することにより原告オリックスは本件貸付利息を、オーリスは被告T社に対する貸付利息を、被告T社は参加手数料として契約当初一口につき二〇万円とリミティッドパートナーシップからの損益の五パーセントの営業者報酬を各取得することができる。

一方、投資者は、本件投資が建物及び敷地価格のうち建物価額の割合の高い米国の不動産を対象とするため、日本での不動産への投資に比べて投資額の減価償却の対象となる部分が大きく、減価償却の効率的な取り組みによる税の繰り延べ効果を得られるほか、前記のように本件融資制度による借入金利息を税務上損金処理でき、また、日本のような地価の高騰がなかった米国所在不動産では日本に比べ投資額に対する相対的に高い賃貸収益利回りを受け、さらには、投資期間終了後の本件物件の売却差益を享受できるが、反面、米国での不動産市況が悪化し、入居の状況、賃料水準の変化、法律の改変による規制等により賃貸収益の減少、本件物件の価格下落による売却差損という不動産投資固有のリスクを伴い、また、為替変動によるリスクも併せ負うという側面がある。

(五) 本件匿名組合契約の存続期間は、リミティッドパートナーシップの解散(本件物件の売却を含む。)、リミティッドパートナーシップの被告T社の持分全部の売却、移転、リミティッドパートナーシップの破産のいずれかの事由が生じるまでとされ、それまでは、組合員が同組合契約上の権利を譲渡でき、この場合、被告T社が時価により優先的に買い取ることができる。そして、ここにいう時価とは、被告T社のリミティッドパートナーシップへの出資総額に投資者の投資割合を乗じて算出された米国ドルを、そのときにおける円・米国ドルの為替レートで円に換算した額とする。

4  被告友定建機は、本件投資に五口投資することになり、平成二年九月一三日、被告T社との間に本件匿名組合契約を締結し(甲第三号証)、右3(三)(1)の六〇〇万円の出資金(五口合計三〇〇〇万円)を原告オリックスから本件貸付を受けて調達し(甲第一号証)、被告T社への払込は被告T社が被告友定建機に代わり原告オリックスから代理受領する形で払い込まれ(甲第二号証)、本件貸金の担保として、本件匿名組合員契約上、被告友定建機が営業者である被告T社に対して有する権利のうち三六〇〇万円(一口七二〇万円の五口)分を譲渡担保に供した(甲第四号証)。

また、被告友定建機、右(二)(1)の自己資金による出資金一二〇万円(五口合計六〇〇万円)を被告T社に払い込み、被告T社のオーリスからの借入金を五口分一五〇〇万円の限度で保証した(甲第五号証)。

5  かくて、被告T社は、他の投資者を含めて本件匿名組合契約により総口数684.15口の出資を受け入れ(4.185口を引き受けた原告オリックスを除く投資者全員が本件融資制度を利用して原告オリックスからの借入をした。)、前記リミティッドパートナーシップに投資し、同パートナーシップは本件物件を南西株式会社の関連米国法人であるナンセイコーポレーションから四九〇〇万米国ドルで購入し、平成二年九月からこれを南西株式会社(資本金一〇〇〇万円)の一〇〇パーセント子会社であるナンセイマネージメントUSA(以下「ナンセイ」という。)にマスターリース(一括賃貸)した。ナンセイとの契約では、一年から四年目までは年間二四五万米国ドル、五年目から八年目は年間二六九万五〇〇〇米国ドル、九年目から一二年目は年間二九四万米国ドルをリミティッドパートナーシップが賃料として受け取ることになっていたが、平成三年末ころから現地カリフォルニア州南部の経済が下降し始めて賃料水準が低下し、ナンセイの入居テナントからの賃貸収入が減少してリミティッドパートナーシップへの約定賃料の不払いが始まり、平成六年一一月時点での未払賃料が一六二万米国ドルに達したためナンセイとの賃貸借契約を解除し、管理会社を原告オリックスの関連米国法人に変更した。その後、リミティッドパートナーシップは、空室についても新たな賃借人を募集しているが、現地の不動産賃貸市況は依然不活発で賃料水準も三〇パーセント程度下落し、平成八年時点での本件物件の評価も一四七〇万米国ドルまで下落し、これに為替の変動も加わり、現在では、本件匿名組合契約による出資の時価は当初出資額の五分の一程度にまでなっている。

二  争点並びに被告友定建機の主張

1  本件匿名組合契約の効力

(一) 錯誤無効

本件投資は、多額の借入金により高額な減価償却資産を購入し、それを賃貸することにより借入金の利息と減価償却費用を二重に損失として取り込み、売却時までの課税の繰り延べ効果を狙ったいわゆるレバレッジドリースの一つであるが、被告友定代表者は、当初より不動産投資をする意思はなく、その契約内容の複雑性ゆえ内容が理解できておらず、また、レバレッジドリースの仕組みについても十分な理解ができないまま本件匿名組合契約を締結したのであるから、同契約内容に沿った契約意思を有さず、右契約は無効である。

すなわち、レバレッジドリース契約の特徴は、主として節税目的で契約し、本件では、本件借入金の金利を費用で落とすこと、本件物件の減価償却費用を取り込むことによる匿名組合契約上の損失を費用で落とすことにあるが、被告友定建機は、前者については通常の借入金利息として経理上損金処理をしていたが、後者については何らの節税処理をしていない。これは、被告友定建機が本件投資のシステムや本件匿名組合契約内容を十分に理解できないまま契約を締結した証左であり、しかも、この点は投資者が本件匿名組合契約を締結する重要な要素となっているのに、被告がその点について理解できていなかったのであるから表示意思と内心の効果意思が重要な点で一致しておらず、右契約は無効である。

(二) 詐欺による取消し

原告オリックスの従業員である壇上鎮宏(以下「壇上」という。)は、被告友定建機代表者に対して、本件投資が最終的には大きなリスク負担の可能性が含まれる海外不動産投資であるにもかかわらず、これを隠して、あたかも保険と同様の安全な節税商品であると説明し、さらに、事実に反して、被告友定建機が希望したときは、原告オリックスがいつでも右契約上の権利を当初の出資価額で買い取り、被告友定建機が右契約から脱退できるかのように説明して右契約を勧誘し、被告友定建機はこれを信用して契約を締結したものであるから、被告友定建機は平成八年一二月一八日付準備書面により右を詐欺を理由として取り消す旨の意思表示をし、同準備書面は同日原告オリックスらに到達した。

(三) 商法五三九条に基づく解除

本件匿名組合契約においては、組合の存続期間が定められていないから、被告友定建機は商法五三九条一項により右契約の解約告知をすることができるところ、被告友定建機は、被告T社に平成四年一二月二日到達した書面により解約告知したから、本件匿名組合契約は解除された。

(四) 善管注意義務違反による解除

被告友定建機の本件匿名組合契約締結時の出資の評価額は五〇〇〇万円であったのに、原告オリックスの評価に依拠すれば、平成五年七月ころにおけるそれが一二五〇万円であるというのであるが、被告T社は、その主張自体において事業者としての善管注意義務違反を認めているものである。

すなわち、一契約者にすぎない被告友定建機は本件物件を直に見聞したことすらないのであって、その購入価格の合理性、妥当性、売却時期、ナンセイへのマスターリースの妥当性等には一切関与できず、それは挙げて被告T社が善管注意義務を履行してなすべきものである。そして、日本においては、その時期、期間において、いわゆるバブルの崩壊があったが、カリフォルニアにおいては急激な不動産価格の下落はなかった。むしろ、米国の不動産不況は、昭和六〇年ころのS&L銀行の倒産により平成二年ころには整理が進んでいたはずで、仮に、本件物件にテナントが入居しないというのであれば、それは他の物件と比べて賃料が高すぎたからであり、これはそもそも、本件物件の購入価格が他と比較して異常に高すぎたためである。また、被告T社は、いわゆる不動産バブル企業である南西株式会社の関連会社であるナンセイをマスターリース先に選定し、日本におけるバブル崩壊により同社がマスターリース料を支払えず、同社との契約を解消するに至っているが、同社にマスターリースしたこと、その後同社との契約を解消して予定の賃料収入を上げられるリース先を見つけられなかったことは、営業者としての善管注意義務違反であるから、被告友定建機は平成八年一二月一八日付準備書面により商法五三九条二項により本件匿名組合契約を解約する旨の意思表示をし、右準備書面は同日原告らに到達した。

2  本件匿名組合契約の効力と本件貸付契約の帰趨

本件貸付と本件匿名組合契約は、原告オリックスの開発した本件投資に出資するにおいて、互いに密接、不可分な一体関係(一種の混合契約)にあり、一体契約の一つである本件匿名組合契約の無効、取消し、解除は本件貸付契約の解消を生じるから、原告オリックスの甲事件請求は認められない。

仮に、右にいう法律上の不可分、一体性が認められなくとも、本件投資としての経済的一体性があり、そのような場合、原告オリックスの甲事件請求は信義則上許されない。

3  原告らによる被告友定建機に対する不法行為の成否

1(二)と同旨であるが、被告友定建機は、右不法行為により一の基本的事実関係3(三)(1)の五口分の自己集金額六〇〇万円相当並びに四回分の利息金四六八万三八六五円相当の損害を被った。

第三  争点に対する判断

一  初めに

本件貸金契約の貸主である原告オリックスと、本件匿名組合契約の事業者である被告T社は法律上は別個の主体であり、また、右両契約も別個の法律関係を構成するものとはいえ、被告T社は原告オリックスの開発した本件投資の中心的構成要素である本件匿名組合契約の法技術的主体として設立されたという密接な関係があり、しかも、本件貸金契約は本件投資を構成する本件融資制度により右匿名組合契約の投資者の資金を調達させ、同時に、本件商品の特徴である節税効果を生む源泉となっているのであるから、本件匿名組合契約が無効ないし取り消された場合、その事情如何によっては本件貸金の請求が信義に反する事態を招来する場合もあり得ると考えられる。よって、この観点から、被告友定建機主張の本件匿名組合契約の無効、取消につき検討を加えるに、証拠(甲第六号証ないし第九号証、乙第一ないし第四号証、第九ないし第一二号証、証人壇上鎮宏、同堀田征昭、被告友定建機代表者本人)によれば、以下の事実が認められる。

1  被告友定建機は、昭和四〇年の設立以来一貫して黒字を計上し、税務署からも優良納税法人としての評価を得、資産の一部にゴルフ会員権を有する程度で、代表者の経営方針もあって、いわゆるバブル経済期にも不動産投資や株式投資に手を染めることなく堅実経営を重ねてきたが、節税については堀田征昭顧問税理士に相談してそれなりの対応をし、平成二年六月期決算を前に決算対策として原告オリックスから一億円を借り入れて全期前納型の生命保険に加入し、初年度の保険料の半額を福利厚生費として損金算入して税の繰り延べ効果を図るなどしていた。

2  被告友定建機は、車両用無線機のリース等を通じてそれまでから原告オリックスと取引があったが、右の生命保険契約加入に伴う借入についての同原告の担当者は大阪情報機器第一部営業第三課の壇上であった。壇上は、被告友定建機が毎期約四〇〇〇万円の申告所得があって節税に腐心していることから、折から、節税商品としてそのころからセールスを開始した本件投資を勧誘することにし、平成二年六月一六日、本件投資を解説したパンフレット(乙第一号証、第四号証)を持参し、予め社内の講習会で受けた説明に従って本件投資に原告オリックス、被告T社、匿名組合、リミティッドパートナー、ナンセイ等が関係し、一口で初年度は一二五万円の赤字を計上でき、税務申告にあたり税の繰り延べを組み込めることなど本件投資の概要を説明して一〇口の投資を勧誘した。

乙第一号証のパンフレットは「グローバルな資産運用システム・3ハットン・センターについて」と題された投資家向けのパンフレットであり、A四版片面五丁分の解説に収支見込表三丁が添付され、本件投資の案内・概要として、本件投資が匿名組合、リミティッドパートナーシップを通じて本件物件を南西株式会社から購入してナンセイに賃貸し、その収益を定期的に投資者である組合員に分配するものであること、及び出資総額、本件物件の概要、匿名組合契約、リミティッドパートナーシップの語義等について簡便に説明され、収支見込表が添付されているが、不動産投資に伴う前記リスクや本件匿名組合契約の存続期間をはじめとする契約内容は開示されていない。

また、乙第四号証のパンフレットは、同じくA四版両面四丁分の解説に、要旨、「本件投資は、不動産のもつ安定性や高いか成長性をベースに、海外における税制メリットを活用するシステムで、そのようなメリットと豊かなファイナンシアル・ノウハウから生まれた先進のシステムが融合したもの。手を煩わせることなく、確実な投資運用が行えます。」とし、本件物件の立地条件、減価償却費など税務上のメリット等の本件投資の利点、本件投資のシステム、出資概要等が記載されているが、不動産投資に伴う前記リスクには触れられていない。

被告友定建機代表者は、右の説明を、要するに、本件投資は、原告オリックスとその関連会社が運営する投資であり、投資者から募った資金を米国不動産の購入に充て、その賃貸収益を投資者へ分配すること、その際、本件融資制度による借入を起こすことにより、本件物件の減価償却費や本件借入利息を会社の損金として処理できるということは大づかみに理解できたが、匿名組合契約やリミティッドパートナーシップという法技術的な仕組は十分に理解できなかったものの、主たる投資動機である節税に適う投資であることは理解して本件投資を決断した。

ところで、被告友定建機の投資動機が節税にあり、本件投資自体によって儲けを期待するものでなかったことから、会社が黒字を計上している間はともかく、不況により赤字経営に転じた場合は節税を念頭におく必要になかったことから(別紙弁済明細表のとおり、本件貸金の元利金返済は、平成二年一一月三〇日を第一回として平成一七年一一月三〇日まで前後三一回にわたり元利合計金七一九三万七一七〇円を支払うというものである。)、同被告にとっては、本件匿名組合契約並びに本件貸金契約を含んだ本件投資を途中で解約できるか否かが大きな関心事であり、この点を壇上に質したところ、同人は「解約はできないけれども、本件投資から脱退する必要性があれば、いつでも私の方で処理します。」との趣旨を答えた。被告友定建機代表者は、それでも、すでに、前記生命保険契約により対税上の考慮をしているのに、そのうえ本件投資により税務対策を講じることが得策かどうか、また、その程度も不明であったため、堀田税理士に相談するということで当日の話を終えた。

3  堀田税理士は、昭和四九年こうから被告友定建機の顧問税理士を勤め、一方、原告オリックスとも付き合いがあり、顧問会社のための航空機のレバレッジドリース、機関車、映画フィルムのリース等の節税商品や金融商品を研究し、壇上とも一〇年来の面識があり、平成二年ころは、月に二回程度壇上の訪問を受け、顧問先に原告オリックスの商品を推奨したことや本件投資の資料を受け取ったこともあり、現在でも、原告オリックスから商品一覧表をもらっている関係にある。堀田税理士は、被告友定建機代表者からは、前記の前納型生命保険契約による節税についても相談を受けており、そのころ本件投資についても相談を受け、この種の契約が性質上中途解約できないことは当然理解していたが、当時、壇上が本件投資の安定性、確実性を強調して各所をセールして回っていることを知っており、自らも壇上から、本件匿名組合契約からの脱退については、投資者の申し入れにより原告オリックスがいつでも出資価格で買い取るか、譲渡先を見つけるという趣旨の説明を聞かされていたので、被告友定建機代表者から、本件投資に参加しても大丈夫か否かの相談を受けた際、その旨の説明をして、節税のため五口の投資を薦め、被告友定建機代表者もこれを決断した。

4  これに前後した契約締結前において、壇上は、本件投資の説明書である乙第三号証、私募概要書である甲第六号証を被告友定建機代表者に交付した。

乙第三号証は、乙第一号証と同一のパンフレットに新たな丁数が加わったもので、その部分には、投資検討にあたってのポイント事項として、①出資は円で行われるが、賃料収入は米国ドルを円転してなされるので為替相場の影響を受けること、不動産市場変動による賃料収入の分配とキャピタルゲインが左右されること、②米国不動産の投資は日本に比べ投資額における減価償却の対象となる部分が大きいため経費控除の効果が期待できること、③匿名組合員の持分は譲渡が制限されるし、「組合員としての本出費は長期間の保有を前提にした保有につき、原則としてその持分の譲渡はできません。やむを得ず譲渡する必要のある場合は営業者が買い取ります。*買取価格は当初の一〇〇パーセント相当額としますが、買取価格は当初営業者がリミティッドパートナーシップに出資した時点のUSドルの金額を買取時におけるUSドル・円の為替レートで円に換算した金額とさせていただきます。」と記載されている。

また私募概要書は平成二年八月米国で作成された文書の翻訳文書であるが、その中には、本件投資の概要をもっとも詳細に説明し、「リスクの要素」の項では、①不動産投資が、全国的、地域的な経済条件、類似タイプの不動産の利用可能性等々により固有のリスクが存在すること、②ナンセイへのマスターリースによる米国ドル建て収入は、為替相場の変動により円建て収入に変化をもたらすこと、③本件物件にはナンセイの負担する抵当権が設定されていてその被担保債務が弁済されないときは投資者が不利益を被る可能性のあること、④本件不動産の購入価格が鑑定を経ないものであること等々が記載されている。

二  争点1(一)について

被告友定建機は、本件投資がレバレッジドリースであるにもかかわらず、本件投資の内容が理解出来ないまま本件匿名組合契約を締結したから、右契約について錯誤がある旨主張する。しかし、いうまでもなく、錯誤とは、本件匿名組合契約書である甲第三号証に署名押印することによりした表示上の効果意思と被告友定建機の内心の効果意思が重要な部分について齟齬することをいうのであり、本件ではこれを認めるに足る証拠はない。本件投資がいうところのレバレッジドリースに該当するか否かはさておくとしても、前記認定のとおり、少なくとも、被告友定建機代表者は、本件投資が原告オリックス及びその関連会社が投資者から募った資金により本件物件を購入し、それを賃貸した賃料から損益の分配を受けるという契約の基本的枠組みを理解していたことは明らかであり、意思表示の重要な部分に錯誤があったとはいい難い。なるほど、被告友定建機代表者の陳述書である乙第九号証並びに同代表者本人の供述(以下、併せて「被告友定建機代表者の供述」という。)によれば、同人は、本件投資の関心がもっぱら節税の部分に注がれ、甲第三号証の条項の仔細についての理解が不十分であったことは認められるが、それは、本件投資が海外不動産に対するものゆえ採用された法技術的な部分を構成する匿名組合契約、リミティッドパートナーシップ等の馴染みの薄い内容についての理解の不十分を示すのみであり、本件投資の基本的構成要素について右契約内容と異なる内心的効果意思を有していたと認めるに足る証拠はない。

被告友定建機は、節税の二要素のうち、不動産の減価償却費を損金算入するとの側面を理解していなかったと主張するが、仮にそうであり、かつ、それが重要な要素に該当するとしても、それは被告友定建機の節税対策にとって有効な要素であり、これを認識したからといって契約の締結を断念したとはいえないから、結局、この点の錯誤の主張も失当である。

よって、錯誤の主張は採用しない。

三  争点1の(二)について

被告友定建機は、壇上が、本件投資の危険性や脱退の可否について虚偽の事実を告げて契約を締結させた旨主張するが、これを認めるに足る証拠はない。すなわち、

前記認定事実によれば、本件投資における危険性といっても、本件物件の一二年間のマスターリースを予定していたナンセイの営業が頓挫したことにより予定された賃料収入が上がっていないことと、米国の不動産市況の悪化という一般的経済事情の変化により本件物件の価格が現状では下落したという不動産投資に伴い当然織り込まなければならない一般的リスクが具現化してその回復を見ていないというのにすぎず、本件投資の技術的仕組自体に当初から危険性を生じさせる欠陥があったり、あるいは、商品先物取引のような通常人の理解や推測を超える高度な投機性・危険性に由来するものではない。しかして、乙第四号証のパンフレットにも、本件投資の利点の一つとして、安心できる運営管理の見出しをおいて「投資金の運営はオリックスグループ会社が、運営管理は南西株式会社のグループが中心となっています」と記載されていることからすれば、壇上が当初の説明において、右の点を強調していたであろうことは推測に難くない。しかし、右とても、不動産投資に対する一般的リスクをまでを積極的に否定するものとはいえないし、本件では、右のような不動産投資に伴う一般的リスクの説明をしたか否かは、当の壇上証言と被告友定建機代表者の供述を対比検討しても明らかではないが、少なくとも、本件投資に関する諸契約締結前には、前記乙第三号証、甲第六号証の私募概要書が被告友定建機に交付されて本件投資に伴う前記の危険性情報もすべて開示されているのであり(右各号証のリスクに係る説明部分は、不動産投資と為替相場の変動による一般的危険を認知させるのに十分といえる。)、壇上の勧誘行為に詐欺行為があったとまではいい難い。そして、被告友定建機代表者の供述を検討すれば、原告オリックス並びに傘下企業の信用性が高いため、右のような不動産投資に伴うリスクや為替リスクがグループ内の運用の妙で吸収されるかのような理解がなされているが、壇上がそのような説明をしたと認めるに足る証拠もない。

また、その後者について見れば、被告友定建機代表者は、その供述において、「壇上は、本件貸付契約、本件匿名組合契約を含む本件投資の解約は原告オリックスの方で処理する、と説明したので堀田税理士にも相談したら、同税理士も壇上から同旨の説明を聞いていると答えていた。」と述べるが、右供述は、甲第九号証、壇上、堀田証言に照らしてそのまま採用することはできない。堀田税理士は、前記のとおり、レバレッジドリースをはじめとする節税商品に通じていて、本件投資のような契約は中途解約ができないとの認識を有しており、同税理士が被告友定建機代表者の問い合わせに対し、本件投資が中途で解約できるとの説明をするはずがないと認められるからである。そして、被告友定建機代表者の供述によれば、同被告が解約を申し入れた後、初めて解約できないとの認識を得たというのであるが、その認識が解約と他への持分譲渡による脱退との差異を理解しない誤解に基づくか否かはともかく、本件匿名組合契約書である甲第三号証では、「中途解約はできず、他に譲渡ができるが、被告T社が当初出資額で優先的に買い取ることができる」旨、また、乙第三号証のパンフレットでは「出資は原則として他に譲渡できず、やむを得ず譲渡する場合は被告T社が当初出資価格で買い取る」旨が記載されており、壇上も、これに従った説明をしたであろうことが推測できるものである(原告オリックスらが、後日、右の引取額を、当初出資額ではなく一二五〇万円を提案したことの当否は別論である。)。

四  争点1の(三)について

被告友定建機は、商法五三九条一項により本件匿名組合契約の解約告知をしたと主張するが、もともと、同条項による匿名組合契約の解約告知は当事者の意思による解約であって、それ自体が本件貸金契約の請求を信義則違背とする事情とはなし難いが、この点をさて措くとしても、右契約においては、契約書とおりであり、右主張は採用できない。

五  争点1の(四)について

また、同被告は、被告T社の善管注意義務違反によりやむを得ない事由があるものとして商法五三九条二項により本件匿名組合契約を解約する旨主張するが、本件投資における賃料収入が当初予定した額に上らず、また、本件物件の価格が現在下落している事実も、いずれも不動産市場の悪化という一般的経済要因によることは前記のとおりであり、これをもって、原告オリックスらが善良な管理者としての営業の実行を怠り、あるいは、重要な義務の履行を怠っているともいえないから、右主張も理由がない。なお、被告友定建機は、原告らがマスターリース先としてナンセイを選択したことを捉えて善管注意義務違反を云々するが、甲第七号証並びに弁論及び全趣旨によれば、ナンセイ及びその親会社である南西株式会社は、当時は、米国における賃貸収益物件の取得運営に関しては既に数年の経験を有しており、米国数カ所で開発案件を行っていた会社で、その選定が恣意に流れたとか、当初からマスターリースの相手先として不適格であったと認めるに足る証拠はないし、ましてや、原告オリックスらが本件物件を経済の実態から乖離した高値で購入したと認めるに足る証拠はない。よって、この点の主張も採用できない。

六  争点3について

被告友定建機は、壇上による本件投資の勧誘行為に不法行為があったと主張するが、これを認めがたいことは先に認定のとおりであり、右主張は採用できない。

七  結論

してみれば、原告オリックスの甲事件請求は理由があるが、被告友定建機の原告オリックス、被告T社に対する乙事件請求は理由がないので、主文のとおり判決する。

(裁判官渡邉安一)

別紙弁済明細表<省略>

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